今回は、自己紹介を兼ねた、私の生い立ちのご紹介です。
私は神奈川県の箱根町の旅館の娘として生まれました。桐谷箱根荘という旅館で今は弟夫婦が跡をついでいます。
旅館と住まいが同じ敷地内にあるため、私は女将として働く母の姿を身近にみて育ちました。そのため、普通のご家庭とは違い、商売が1番、家庭は2番という特殊な環境で育ちました。
小さい時から「商売」というものがどのようにあるべきか?というのを、叩き込まれてきました。その中で、今も覚えていて今の自分の中で、核になっているようなエピソードを3つ、ご紹介します。
1.全館あかりをつけよ!
多分、石油ショックの時だったと思います。世の中が不景気になり、どこの旅館もお客さんが来なくなって、バタバタと潰れていきました。うちの旅館にもお客さんがこなくなり、部屋はガラガラで閑古鳥が鳴いていました。
そんな時、母は「全館明かりをつけよ!」と全従業員にお客さんがいないのに、毎日、全室明かりをつけさせていました。前を通る人や車が「桐谷さんのところだけは、いつも満室だ」と思ってもらえるからと、苦しい見栄を張っていました。
「景気の悪い時ほど胸をはれ。それが商売人の心意気だ!」と。
この言葉は、今も私の核になる言葉として残っています。
商売というのには波があり、いい時だけではなく、必ず厳しい時、苦しい時というがのあります。
商売人というのは逆境の時こそ真価が問われます。まず気持ちで負けないこと。そんな商売人としての強さを母に教わりました。
2.サービス業はろうそくである。自分の身を削って人を照らせ。
この言葉は旅館のようなサービス業の基本の言葉です。
サービス業に向いている人か?向いていない人か?はすぐにわかります。まずサービス精神があるかどうか?です。
サービス精神というのは「どのくらい相手の立場にたってものを考えられるかどうか」という能力です。
賞金を稼ぐプロゴルファーがいいレッスンプロになれるか?というとそうとも限らないのは、この能力がないからです。最初からできる人はできない人の気持ちがわかりません。また何がわからないか?がわかりません。サービス精神のある人は、相手が子供なら膝をおって同じ目線になり、年寄りには相手のわかる言葉を使って説明します。人にものを教えてもらうと、この能力の有無がすぐにわかります。
あと一つ「相手の喜びを自分のことのように喜べる」ことが、サービス業の適正能力です。この能力をもっている人は、実はとても少ないです。本当の友達は悲しい時に一緒に泣いてくれる人ではなくて、嬉しい時に一緒に喜んでくれる人です。
サービス業に向いている人は、当社のようなIT業界でもとても優秀な働きをします。まず職場ではムードメーカーになり、お客様の身になって親身になって相談にのり、一緒に怒り、一緒に泣き、一緒に喜びます。人の幸せを喜べるので、人生の中で何倍もの幸せを実感することができます。仲間も多く、豊かな人生を送ります。
3.女将の仕事はオーケストラの指揮者である
旅館の女将の仕事は、昔からある究極の総合職です。女将さん自身は料理も作らないし、布団もあげないし、掃除もしません。それぞれの部署の人たちの仕事を差配し、指導し、チェックして、一番いいおもてなしの環境を作ることが仕事です。
大事なのは、自分でやらないということです。専門家には口を出すな!の門という字には口がありません。専門家を信用して仕事を任せる。それをプロデュースし、一番いい形に仕上げることが仕事です。
女将の仕事も社長の仕事も基本は同じで、オーケストラの指揮者です。それぞれの役割の人たちを信用して仕事を任せる。そして仕上がりをチェックして、全体としてどうすれば一番いい演奏になるか?の音合わせをする。誰が音を外しているのか?テンポがはずれていないか?をチェックする。
まず耳がよくなければならないし、それぞれの楽器が演奏できて、専門用語も話せなければなりません。チームワークが大事なので、それぞれの演奏者の事情にも気を配らなければならないし、未来のために次の人材も育てていかなければなりません。常に勉強していかないとついていけなくなります。
でもそれって今の私の仕事と同じですよね。つくづく女将の仕事も社長の仕事も同じだなぁって感じます。
4.おまけ 父の金言3つ
ついでに父から言われた言葉もいくつか紹介します。
・「商いを飽きないでやる」
仕事は短距離走ではなく長距離走です。頑張りすぎるともたないので、時にはのらりくらり、根気強く、我慢強く、したたかに、商売人は商いを続けなければなりません。
・「商売に一番大事なものは信用である」
支払い遅延や返済遅延などをしてはダメ。信用を築くには長い時間がかかりますが、失う時は一瞬です。借りたものは返す。冠婚葬祭や義理人情は欠かさない。スタッフや業者を大事にしていい関係を築く。トレンドをおさえる。業界の発展に寄与する。情報収集と広告に真剣に取り組む。
・「生き銭と死に銭」
経営は投資です。一生懸命稼いだ利益を何に使うか?が重要です。お金を何に使うか?を考える時、投資したお金がお金を呼び、より多くのお金を連れてきてくれるお金を「生き銭(イキゼニ)」といいます。これに対し、投資したお金がお金を連れてこない、効果のないお金のことを「死に銭(シニゼニ)」と言います。自分への投資は生き銭ですが、助成金がもらえるからと言って不要な投資をするのは死に銭です。
商売人はこの貴重な原資を生き銭に使うよう心がけなければなりません。
ちょっと長くなりましたが、自己紹介を兼ねた、私の生い立ちのご紹介でした。
ではでは~(‘◇’)ゞ
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